行路難し(行路難)

書き下し文

金樽の清酒 斗十千

玉盤の珍羞 直萬錢

杯を停め、箸を投じて、食う能わず

劍を拔いて、四顧すれば、心茫然たり

黄河を渡らんと欲すれば、冰は川を塞ぎ

太行に登らんとれば、雪は山に滿つ1

閑来、釣りを垂る 碧渓の上2

忽ち復た、舟に乘って、日辺を夢む

行路難し 行路難し

岐路多し 今安くにか在る

長風、浪を破る 会ず時有り

直ちに雲帆を挂けて、滄海を済らん

訓読文

行(こう)路(ろ)難(かた)シ

李(り)白(はく)

金(きん)樽(そん)ノ清(せい)酒(しゅ)斗(と)十(じっ)千(せん),

玉(ぎょく)盤(ばん)ノ珍(ちん)羞(しゅう)直(あたひ)萬(ばん)錢(せん)。

停(とど)メ[レ]杯(さかずき)ヲ投(とう)ジテ[レ]箸(はし)ヲ不(ず)[レ]能(あた)ワ[レ]食(く)フ,

拔(ぬ)キテ[レ]劒(けん)ヲ四(し)顧(こ)スレバ心(こころ)茫(ぼう)然(ぜん)タリ。

欲(ほっ)[レ]スレバ渡(わた)ラント[二]黄(こう)河(が)ヲ[一]冰(こおり)ハ塞(ふさ)ギ[レ]川(かわ)ヲ,

將[レ](す)レバ登(のぼ)ラント[二]太(たい)行(こう)ニ[一]雪(ゆき)ハ滿(み)ツ[レ]山(やま)ニ。

閑(かん)来(らい)垂(た)ル[レ]釣(つ)リヲ碧(へき)渓(けい)ノ上(ほとり),

忽(たちま)チ復(ま)タ乘(のっ)テ[レ]舟(ふね)ニ夢(ゆめ)ム[二]日(にっ)邊(ぺん)ヲ[一]。

行(こう)路(ろ)難(かた)シ,行(こう)路(ろ)難(かた)シ,

多(おほ)シ[二]岐(き)路(ろ)[一],今(いま)安(いづ)クニカ在(あ)ル?

長(ちょう)風(ふう)破(やぶ)[レ]ル浪(なみ)ヲ會(かなら)ズ有(あ)リ[レ]時(とき),

直(ただ)チニ挂(か)[二]ケ雲(うん)帆(ぱん)[一]ヲ濟(わた)[二]ラン滄(そう)海(かい)ヲ[一]。

典籍

李太白文集 (清)王琦琢輯註

参考資料


  1. 「雪は天を暗くす」ともする。 ↩︎

  2. 「渓上に座し」ともする。 ↩︎